第2章 第1節 安全配慮義務

第2章 第1節 安全配慮義務

千鳥ヶ淵研究室 主任研究員 高嶋茂雄

1、安全配慮義務とは

安全配慮義務とは、労働契約法第5条に次のような定めがある。

「使用者は、労働者契約に伴い、労働者がその生命身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」

これは、仕事中に怪我をしたり、健康を害するようなことがないように労働できるよう、会社は配慮をする義務を負うことを意味する。

2、コロナ禍における安全配慮義務

コロナ禍の現在においては、次のような感染予防対策も安全配慮義務の一環といえる。

1)テレワーク

2)時差出勤

3)社内環境整備

(アクリル板の設置、定期的な換気、少人数での打ち合わせ、マスクの着用義務化、消毒液の備え付け、手洗いうがいの勧奨など)

 弊社にも多く相談を寄せられた「マスク着用を義務化できるかどうか」については、上述の安全配慮義務の観点からも可能であると考えるが、会社がマスクを用意するもしくは、その費用を負担するなどして、会社が積極的に義務の履行を果たすための努力をすることも忘れてはならない。会社が積極的に義務の履行を果たすための努力をするという観点から、テレワークの実施についても同様と言える。たとえば、テレワークの実施について、労働者の任意の選択により在宅と出勤を選択できるようにすることは良いが、そのような場合でも、暗に出勤を強制するような言動により、労働者がやむを得ず出勤を選択せざるを得ない状況に追い込まれているようであれば、感染予防対策を履行したとは言い難いであろう。

なお、安全配慮義務は、働く場所に関わらず雇用契約に基づいて労働する場合に等しく適用されるものだから、テレワークにおいて勤務している場合にも適用される。

安全配慮義務を履行したというためには、次の2点に注意しなければならない。

1)予見可能性・・・労働者の身体や健康を害することが予見できたかどうか

2)回避可能性・・・予見できたとしても、結果を回避することができたかどうか

会社が安全配慮義務を怠った場合、民事上の責任を追及される可能性が高まる。

例えば、飲食を伴う懇親会や、大人数や長時間におよぶ飲食が伴う飲み会や宴会を会社が主催し実行した結果、従業員が新型コロナウイルスに感染してしまったような場合は安全配慮義務を問われかねないと言える。

 

また、発熱がありコロナウイルス感染症の疑いがあるような従業員を就労させてしまった結果、他の従業員が感染してしまった場合は、上述の予見可能性(予見できたにも関わらず)、回避可能性(結果を回避しようとしなかった)共に、怠ったことになるであろう。

この他、濃厚接触者となった従業員についても同様である。

3、テレワークにおける安全配慮義務

会社は、在宅勤務等のテレワークで勤務する場合においても安全配慮義務を負う。そのため、在宅勤務等のテレワークで勤務する場合には、その労働衛生上の問題点を解決するように配慮する必要があるといえる。

加えて近年は、テレワークをしている従業員に対する嫌がらせ、いわゆる「テレハラ」が問題になっている。安全配慮義務は、身体の健康や安全のみならず、心の健康についても配慮を求めている。

次節以降ではこれらテレワークにおける労働衛生上の問題点や、テレワークにおけるハラスメント等についても触れていく。