はじめに

新型コロナウイルス感染症の影響により、従来の常識や価値観は大きく変化しています。

ソーシャルディスタンスという言葉が使われ、感染リスクを避けるため時差出勤をしたり、在宅勤務をし、オンラインで打ち合わせを行ったり、働き方に関しても確実に変わってきています。

こうした転換期に、実際に各企業が新型コロナウイルスでの労務管理をどのように対応していくのか、人事・労務のプロである社会保険労務士として、客観的な事実をもとに現状を把握することにしました。

そして、小林労務では「コロナ禍の労務管理に関する報告書」として、職員に各節を担当してもらい、社会保険労務士の見地から、様々な角度でコロナ禍での労務管理について論じていくことにしました。

本報告書が、人事・総務担当者をはじめ、関係者各位にとって、今後の労務管理の参考となれば幸いです。

また、限られた期間の中、この報告書に携われた各職員をはじめ御協力いただいた関係者各位に対して、改めて感謝の意を表す次第です。

令和2年9月

千鳥ヶ淵研究室 研究室統括責任者 小林 幸雄

第1章 第1節 在宅勤務の定義

第1章 在宅勤務

第1節 在宅勤務の定義

1、在宅勤務の定義、テレワークの定義

テレワークとは、「ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」(厚生労働省)をいう。テレワークは、ICTをつかって、所属する事務所のオフィス以外で勤務することを総称するものと言える。

テレワークには、主に次のような種類がある。

・在宅勤務
主に自宅で勤務するテレワーク 在宅勤務の導入目的によっては、従業員の実家なども自宅に準じた場所として扱われることがある。

・モバイルワーク(モバイル勤務)
移動先や移動中、顧客先、喫茶店など事業場外で勤務するテレワーク

・サテライトオフィス勤務
「シェアオフィス」や「コワーキングスペース」といったオフィススタイルの小規模スペースで勤務するテレワーク

2、在宅の範囲

テレワークのうち在宅勤務については、在宅での働き方の範囲や、契約形態の範囲によって違いが見受けられる。ここでは、その違いを整理しておく。

・在宅勤務での働き方の範囲

在宅勤務には、終日在宅と部分在宅がある。

【終日在宅】
1日の労働時間すべてを在宅で勤務する形。会議やミーティング、顧客との商談についてもオンラインで行う。

【部分在宅】
1日の労働時間の一部を自宅で勤務し、他方、会議や商談については、外出し訪問することがある。

この他、常態として在宅勤務が前提となる就労と、利用回数に制限のある在宅勤務が見受けられるが、これらは在宅勤務の導入目的によって、使い分けがなされるものと考えられる。

・働き方契約形態の範囲

在宅勤務という働き方でも、その契約形態は複数存在する。例えば、雇用契約によるもの、業務委託などが考えられる。就労場所の違いはあるが、契約形態ごとに適用される法律を遵守する必要がある。特に雇用契約であれば、オフィスで勤務する場合と同様に労働時間の把握や、労働安全衛生管理などが求められる。

・在宅勤務導入時の心構え

在宅勤務の導入に際しては、予めその導入目的や求める効果を明確にし、目的に沿った設計を行い、導入後もその効果を分析しながら、効果的な制度に更新して行く必要がある。つまり、「在宅勤務を導入すること」が目的とならないようすることが重要な心構えである。

第1章 第2節 在宅勤務の導入プロセス

第2節 在宅勤務の導入プロセス

本節では、テレワークを導入するためのプロセスおよび、推進体制をどのように策定することが望ましいかについて述べることする。
テレワークの導入の大まかなプロセスとしては、次の通りである。なお、本節では「雇用型」契約形態を前提に解説する。

【テレワーク導入のプロセス】

      1. 導入の目的の明確化/基本方針の策定
      2. 推進体制の構築/社内の合意形成
      3. 対象業務の選定や業務分析
      4. 導入に向けた具体的ルールの策定
        (1)対象者の選定
        (2)形態
        (3)労務管理制度の見直し
        (4)システム・就労環境の整備
        (5)教育・研修等
      5. 試験的導入と推進のための評価と改善

1、テレワークの導入目的の目的の明確化、基本方針の策定

総務省の「平成29年通信利用動向調査」によると、テレワークの導入目的は、1位が勤務者の移動時間の短縮、2位が定型的業務の生産性の向上、3位が勤務者のゆとりと健康生活、4位が通勤弱者への対応といったものが上位にあげられる。コロナ禍の現在であれば、「感染予防のため」といった目的も考えられるであろう。

上記の導入目的が大半を占める結果となるが、実際に企業が導入の目的として設定した事項を実現化させるためには、企業の経営方針と目的が密接にリンクしていることが成功の基礎となるのではないか。そのため、テレワークの導入目的を経営トップ自らが従業員に明確にし、理解させることが望まれる。テレワーク導入の早期段階から、目的を社内で広く共有し、全社で関心と協力、理解を得られるように導入を進めることが成功の鍵といえよう。

2、推進体制の構築/社内の合意形成

テレワークの推進にあたっては、導入推進部門、いわゆるプロジェクトチームを結束し、一丸となって施策を推進することが重要である。参画部門は、経営企画部、人事・総務部、情報システム部門、導入対象部門など横断的な体制作りが望ましい。今後、導入の検討にあたり、セキュリティに関するルールの策定など部門を超えて議論する必要があるからである。なお、人事部門がいかに導入の必要性・重要性を主張しても、導入部門の責任者の協力・理解がないとテレワークの導入が難航することも予想されるため、当該プロジェクトチームの取りまとめ役、いわばリーダーには、導入部門のトップに努めてもらうことも最適である。

3、業務分析による現状業務の把握

プロジェクトチームが主体となり、現状の業務分析を行い、テレワーク導入の対象業務の整理を行う。この際、「業務」単位で整理を行うことが重要である。まず第一に、業務全体の「洗い出し」を行い、テレワークで実施しやすい業務と実施しにくい業務を整理することである。業務の「洗い出し」は、次に述べるような観点で行うことが考えられる。導入時にテレワークでできる業務を特定することは、導入後の普及拡大に向けた課題を明確にすることに繋がる。

①業務時間
業務にかかる時間はどれくらいか。

②使用する書類
どのような書類を利用しているか。その書類の媒体は、紙か電子ファイルか。

③システムやツール
テレワークでも実施可能なシステム・ツールが揃っているか、セキュリティ環境は万全か。

④個人情報の有無
業務上取扱う個人情報など、漏洩リスクの高い内容のものは含まれているか。

⑤コミュニケーション量
業務は何人で行うか、関係者とのやり取りの頻度はどれくらいか、テレビ会議システムにおいて対応可能か。

 

これらを分析したうえで、現状の業務を次の通り分類する。

①現状でテレワーク可能な業務
例:入力作業、データの修正・加工、資料の作成、企画など思考する業務

②対策次第では実施可能な業務
例:紙媒体での帳票を扱う業務、会議・打合せ・社外との調整が可能な業務

③実施困難な業務
例:物理的な操作を必要とするオペレーション業務

4、導入に向けた具体的ルールの策定

(1)対象者の選定

最終的には、テレワーク導入の目的に応じてテレワークの利用を希望するすべての従業員が、業務の種類にかかわらずテレワークを実施できることが理想である。新たにテレワークを導入する段階では、効果の検証がしやすいよう、また従業員・社内の理解も得られやすいという側面から、職種やライフステージ(育児を担う従業員等)などを踏まえて対象者を選定することも有効と考えられる。対象者の選定に当たっては、関係者の理解を得られるよう、明確な基準を設けることが重要であり、その基準については実施に条件を設けることで、その後のテレワーク推進が円滑に行われるきっかけとなる。特にライフステージに関係した利用ルールや対象者の制限を設ける場合、テレワーク対象者の利用ニーズと、企業がテレワークを導入する目的との均衡が重要となるため、まずは対象の従業員にニーズ調査を行うべきである。

なお、対象者を制限した場合でも、対象者が実際にテレワークを実施するかどうかは、本人の意思によることが望ましく、例えば、導入段階においては、対象者の基準を設けた上で「社内でテレワークを実施してみたい従業員を募る」という試みをしてみるのも一考である。この際、自立して職務を遂行できない従業員には在宅での勤務は困難という認識から、入社2年目までの社員は対象外とするなど、職階によって対象者を限定する場合もある。

(2)テレワークの形態

テレワーク形態は、第1節でも取り上げたように、①在宅勤務、②モバイルワーク、③サテライトオフィス勤務の3つにモデル類型化されており、いずれの働き方を導入するのか企業は決定しなければならない。本節においては、最も主流である①在宅勤務型を取り上げる。

在宅勤務型は、通勤時間を完全になくすことができる「週1~2日出社しないで行う終日在宅勤務」を示すことが多い。「顧客との打ち合わせ後に在宅勤務」「在宅勤務後に出社」など1日の一部の時間を使って行う部分在宅勤務は、通勤・移動時間を完全に削減することはかなわないが、無駄な移動を削減することができる効果が期待できる。終日在宅勤務のためのICT環境、セキュリティ、制度・ルールの整備を行うことができれば、当然に部分在宅勤務を行うことができ、働き方の選択肢が柔軟になる。

在宅勤務制度というと、多くの人は毎日在宅で仕事をすると想定しがちだが、日本の企業の場合は、週1日か2日の在宅勤務を導入している例も多くある。そのため、必ずしも毎日を在宅とせず、週のうち数日間を対象とするなど柔軟な方法で導入ができるから、試験的導入は行いやすいといえる。

(3)労務管理制度の見直しの必要性

テレワーク時には、従業員が通常の勤務と異なる環境で就業することになるため、労働時間の管理方法や、業務管理方法等労務管理について改めて確認し、ルールを決めておくことが必要である。労務管理には、始業・終業時刻の記録・報告を行う勤怠管理、業務時間中のプレゼンス管理(在席管理)、業務遂行状況を把握する業務管理の観点が含まれる。

ほとんどの企業の場合、試験的導入の段階では、労務管理制度を特に変えていないこともある。週に1日や2日の在宅勤務であれば外出や出張とさほど変わらないため、特段の支障がないからである。ただし、従業員の勤怠状況を管理するために、始業・終業のルールは試験導入時にも必要な内容として、始業・終業時にはメールや電話で上司に連絡をするなど具体的に取り決めることが必要である。

 

5、社内制度・ルールの整備

①テレワークの利用者登録方法

テレワークの利用者について、どのようなルールで利用者を募るのか、承認者は誰になるのかといった内容の整備があげられる。加えて、日常の利用申請の方法についても、1週間前までに申請・承認を得るのか、前日まででよいのか、など定めておくことが必要である。

②費用負担

自宅でテレワークを実施する場合に必要な通信費や光熱費、ICT機器などの費用負担については、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則などに定めておくことが望ましい。企業によっては、インターネット環境などはほぼすべての家庭で導入していることから追加負担も発生していないとして補助を見送ることもある。音声通話については、携帯電話を会社で支給したり、個人宛ての請求を私的利用と会社利用に分けて請求するシステムを導入している例がある。ICT機器については、会社支給のもののほか、BYOD(Bring Your Own Device)で個人のPCをリモートアクセスで利用することもある。光熱費については、企業によって若干の違いあるものの、多くの場合は自己負担としている例が多いとされているが、在宅勤務の日数が多いという状況では、会社からの補助を検討する余地がある。通勤費については、テレワークの頻度によって検討すべきであり、週に3日以上在宅勤務するような場合は、定期代ではなく、都度実費として精算した方が通勤費用の実態が伴い合理的とする考えもある。また、文具、備品、宅配便等の費用については、通常企業に勤務している場合、文具消耗品については会社が購入した文具消耗品を使用することが多い。切手や宅配メール便等は事前に配布できるものはテレワーク実施者に渡しておき、会社宛の宅配便は着払いにするなどの対応ができる。やむを得ずテレワーク実施者が文具消耗品の購入や宅配メール便の料金を一時立て替えることも考えられるが、この際の精算方法等もルール化しておくことが必要となる。

③労働基準法の適用

在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務のいずれのテレワーク時においても労働基準法は適用される。そのため、労働条件の明示、労働時間の把握、業績評価・人事管理等の取扱い、社内教育の取扱いなど、必要であれば適宜規定の見直しなどが求められる。

A、労働条件の明示

 事業主は労働契約締結に際し、就業の場所を明示する必要がある(労働基準法施行規則5条2項)。そのため、例えば在宅勤務の場合には、就業場所として従業員の自宅を明示することが求められる。

B、労働時間の把握

 使用者は、労働時間を適正に管理するため、従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録しなければならないとされている(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準・平成13.4.6基発第339号)。なお、通常の労働時間制、フレックスタイム制のほかに、一定の要件を満たせば事業場外みなし労働時間制、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制も活用できる場合がある。

C、業績評価・人事管理等の取扱い

 業績評価や人事管理について、会社へ出社する従業員と異なる制度を用いるのであれば、変更の程度により不利益とされることも想定される。そのため、その取扱い内容を丁寧に説明しておく必要がある。また、就業規則の変更手続が必要となる(労働基準法89条2号)。

D、社内教育の取扱い

 在宅勤務等を行う労働者について、社内教育や研修制度に関する定めをする場合にも、当該事項について就業規則に規定する必要がある。

④システムの準備(セキュリティ面の担保など)・就労環境の整備

ア)システムの準備(セキュリティ面の担保など)

 セキュリティ管理については、リモートデスクトップ方式や仮想デスクトップ方式(VDI)、クラウドサービスなどを利用すれば、社外であってもセキュリティ面を確保した上で業務遂行することが期待できるとされている。また、コミュニケーションについてもテレビ会議システムやチャット、メールなどのICTを効果的に活用することで、社内にいるときと同様のコミュニケーション環境に近づけることも可能である。

 

イ)就労環境の整備

a)安全衛生対策
在宅勤務においては、就労場所が従業員の自宅ではあるが、作業環境が整備されることが望ましい。労働安全衛生法では、テレワークを行う労働者も含め、常時使用する労働者に対しては、雇入時の安全衛生教育の実施や雇入時及び定期の健康診断やその結果に基づく事後措置、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェック(常時50人以上の労働者を使用する事業場に義務付け)及び労働者の申出に応じた面接指導等が義務付けられている。そのため、健康上の相談をする窓口を設定することや、医師や保健師による保健指導を実施したりすることも一案である。

b)作業環境管理
在宅勤務の実施者はPCのディスプレイを見て仕事をすることが多い。そのため、労働者の心身の負担を軽減し、労働者がVDT作業を支障なく行うことができるよう支援するために事業者が講ずべき措置について示した「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン(平14.4.5基発第0405001 号)」に留意する必要がある。具体的には、事業者は、在宅勤務に当たって、作業面について必要な照度を確保すること、室内の採光や照明は明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせない方法によること、その他換気、温度や湿度の調整などを適切に実施することなどを労働者に対して周知し、必要な助言を行うことが望まれる。

c)健康管理
在宅勤務を行う場合でも、通常の労働者と同様に、労働者の健康を確保する必要がある。よって、健康診断の結果を踏まえた保健指導を実施することや、労働者に対する健康教育や健康相談、その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずること等が事業者の努力義務とされてることから、在宅勤務の労働者も含めた労働者の健康の保持増進のための積極的な取組を行うことが望まれる。

⑤教育・研修等

テレワークによって、より高い効果を得るためには、導入時の教育・研修が不可欠である。教育には、「社内の認識の共有を図るための啓発」と、「円滑に業務を実施するためのガイダンス」の2つの目的があるが、ここではテレワーク実施前のガイダンスとしての教育・研修における主なポイントを整理しておく。

ⅰ)テレワーク時の目的・必要性を理解する

ⅱ)テレワーク時の体制について理解する

ⅲ)テレワーク時のツールを操作できるようになる

 以上のように、なぜテレワークを実施するのか、その目的と必要性をテレワークの対象者だけでなく、従業員全員が理解することが重要である。そして組織全体でテレワークを有効活用して、業務の生産性を上げることが望まれる。

5,試験的導入と推進のための評価と改善

たいていの企業は、テレワークをいきなり導入するのではなく、試行導入した後本格的に導入する。試行導入時には、対象者や部門を絞って実施し、そのときに発生した様々な問題を解決して本格導入に至る。試行導入時に導入効果を計測する項目としては、次のようなものがあげられ、これらの項目を総合的に評価して本格導入の拡大範囲を決めることが重要である。

<項目例>

①定量評価項目
顧客対応、情報処理力、オフィスコスト、移動コスト、ICTコスト、人材確保・維持

②定性評価項目
業務改革、顧客満足度、従業員満足度、コミュニケーションの質、ワークの質、生活の質、全体評価

 

 

第1章 第3節 会社から見るテレワークのメリットとデメリット

第3節 会社から見るテレワークのメリットとデメリット

1、テレワーク勤務の事例紹介

総務省では、平成27年度より、テレワークの導入・活用を進めている企業・団体を「テレワーク先駆者」としており、その中から十分な実績を持つ企業等を「テレワーク先駆者百選」として公表している。平成28年度より、その中から特に優れた取り組みを行っている企業・団体を「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」として公表している。

以下にその取組事例と主な効果を記載する。

【事例1】

企業名:アフラック生命保険株式会社

業種・従業員数:金融業 5,287人

[主な取組]

・全部門・全社員が事前事後の申請・報告なくテレワーク可能 (実施回数・時間に制限なし)

・TV 会議システムの完備、在宅勤務用のシンクライアント端末配布等の ICT ツール整備により場所を選ばず社内と同様の業務遂行できる環境を整備

・分身ロボット「OriHime」を導入、地方勤務社員がテレワーク活用で本社の業務や研修に参加

[主な効果]

・1人当たり時間外労働時間 -2.9時間 (2017年→2018年の推移)

・短時間勤務社員のフルタイム化 (2015年度:53.4%→2018年度:38.4%)

【事例2】

企業名:明豊ファシリティワークス株式会社

業種・従業員数:建設業 229人

[主な取組]

・自社開発システムにより、個人の業務行動を時間単位で把握し、各社員の生産性を定量化

・テレワーク投資への経営判断が容易になったことで、テレワーク環境の整備・改善を加速

・地方自治体から発注者支援業務を受託し、プロジェクトの効率的管理を実現すると同時に、自治体でのテレワーク環境創出を支援

[主な効果]

・1人当たり月平均残業時間 -27 時間 (2012年→2018年の推移)

・時間あたり売上粗利 1.56 倍 (2012 年 → 2018 年の推移)

→ 生産性向上による時間外手当支給実費減少分を給与・賞与で還元

(令和元年度 テレワーク先駆者百選 総務大臣賞 受賞より引用)

2、得られるメリット

時間と場所を有効に活用できるテレワークは、企業及び従業員に様々なメリットがあることが報告されている。上述した ① の「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」を受賞した企業の主な効果を確認すると「1人当たりの残業時間の削減」や「生産性の向上」といった効果があることが確認できる。

そのほか企業が恩恵を受けている点として「人材の確保・育成」「業務プロセスの革新」「事業運営コストの削減」「非常時の事業継続性の確保」「企業内外の連携強化による事業競争力の向上」「人材の離職抑制・就労継続支援」「企業ブランド・企業イメージの向上」が挙げられることが報告されている。(テレワークではじめる働き方改革 テレワークの導入・運用ガイドブック(2016)より引用)

企業のテレワークの導入を検討理由に対する動向調査では「勤務者の異動時間の短縮」が導入目的として割合がもっとも高かった。また、同調査で回答率が高かった項目として「通勤弱者への対応」「優秀な人材の雇用確保」が挙げられる。これは従業員の雇用継続のために、テレワークを導入する企業が増加していることを示しているものであると報告されている。(総務省「通信利用動向調査」(各年)より引用)

3、テレワークにおける安全配慮義務と労働災害

使用者は労働安全衛生法に基づき、労働者の健康状態を把握し、その内容・程度等に応じて、作業の転換や内容の軽減措置等を講じることが、健康・安全配慮義務の履行として求められる。安全配慮義務とは使用者が従業員に負う雇用契約上の義務であり、災害発生を未然に防止するため、物的・人的管理を尽くす義務である。この義務はテレワークを行う従業員に対しても、事業場における勤務と同様に労働災害に対する補償責任を負うこととなる。

すなわち、テレワーク勤務中であっても事故や怪我等に見舞われた場合には労働災害に対する補償責任を負うこととなる。実際にテレワークで労災が認定された事例を以下に記載する。

【事例】

自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した事案。業務に付随する行為に起因して災害が発生しており、私的行為によるものとも認められないため、業務災害として認定された。

(厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」より引用)

以上の内容から、私的行為等の業務以外が原因である災害以外は労災保険給付の対象となることが考えられる。

つまり、テレワーク勤務中特に在宅勤務中であっても労働安全衛生法に定める、作業環境を整えていない場合には安全配慮義務違反として、その責任から逃れることはできないことが示唆される。

第1章 第4節 統計でみるテレワーク

第4節 統計でみるテレワーク

1、統計の種類_企業規模別

コロナ禍において、政府のテレワーク推奨の下、日本企業はテレワークへの移行を迫られ、オフィスの閉鎖やテレワークの原則化の動きが活発となった。
東京都では、2020年3月時点と4月時点のテレワークの導入率について、東京都内の従業員規模により区分した統計データを公表している。
以下にその統計データを記載する。

都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は、2020年4月時点で62.7%となっており、3月時点の調査24.0%に比べて2.6倍と、大幅に増えている。

※出展:東京都 テレワーク「導入率」緊急調査結果

従業員規模別の導入率は、上記図のとおり大企業ほど導入率は高い。
2020年4月時点では、300人以上の企業は、約8割が導入していると回答している。
また100~299人の中小企業でも、約70%となっており、3月時点と比較すると2.8倍と、業種を問わず増えている。

※出展:東京都 テレワーク「導入率」緊急調査結果

2、統計の種類_業種別

テレワークの性質上、導入する業種としてハードルが低いと思われるのが、やはり事務・営業職となる。東京都のデータによると、2020年3月時点では、半数以下であったが、事務・営業職の業種は4月時点では34%が増加し76.2%が導入している。
主な業種は、情報通信業、金融業・保険業、サービス業である。

※出展:東京都 テレワーク「導入率」緊急調査結果

建設業・製造業、運輸・郵便業、医療・福祉、飲食・宿泊業、小売業等は、増加率は40%増と高いものの、事務・営業職の業種と比較し、導入率は55%にとどまっている。
テレワークでは代替できない、対人での業務が求められることなどが大きな要素となっていると思われる。

※出展:東京都 テレワーク「導入率」緊急調査結果

業種・業界によるテレワークの実施率について、更に詳細のデータとして、2020年4月時点のパーソナル総合研究所の統計調査を下記に記載する。
テレワークの実施率の高い業界を列挙すると1.情報通信業53.4% 2.学術研究、専門・技術サービス業44.5% 3.金融・保険業35.1% 4.不動産業33.5% 5.電気・ガス・熱供給・水道業30.8% となっていた。
一方で、テレワークの実施率が低い業界を挙げると、1.医療・介護・福祉5.1% 2.運輸業、郵送業12.1% 3.宿泊業、飲食サービス業14.5% 4.卸売業、小売業21.1% 5.建設業23.3%となっている。

3、統計の種類_都道府県別

東京都におけるテレワーク導入率は上述の通りであるが、東京都以外のテレワーク導入率についてパーソナル総合研究所が公表している。テレワーク実施率上位の都道府県をみると、1.東京都49.1% 2.神奈川県42.7% 3.千葉県38.0% 4.埼玉県34.2% 5.大阪府29.1%となっており、都市部においてテレワーク実施率が高いことが分かる。
テレワーク実施率が低い都道府県は、1.山口県4.7% 2.岩手県6.2% 3.秋田県6.2% 4.長崎県6.2% 5.佐賀県 6.8%となっている。この結果について、テレワークの実施率が悪いということではなく、地方においては満員電車による通勤がほとんど存在しないという実態もあり、テレワークの実施が合理的であるとは限らない場合もある、とパーソナル総合研究所は述べている。

4、従業員の意識調査

コロナ禍におけるテレワークの導入に関しては上述の通りであるが、従業員側から見たテレワークの利用希望についての意識調査として、内閣府が2020年6月に実施している調査がある。
テレワークの実施率が既に高い東京圏に居住している人は、今後はテレワークを中心として利用したいとの回答が多い。

※出展:内閣府 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査

5、まとめ

内閣府が2020年12月に実施した調査によると、直近のテレワーク実施率は、東京23区では42.8%であったが、全国平均では21.5%にとどまっている。
また業種では、情報通信業は、65.6%であったが、小売業11.1%、医療福祉4.8%、保育関係は1.4%と対極化している。

第1章 第5節 諸外国のテレワーク

第5節 諸外国のテレワーク

1、日本におけるテレワーク状況

日本は世界的に見てもテレワークの普及状況はあまりよくない。特に欧米諸国はテレワークの普及が進んでいるのに対して、日本を含むアジア地域の普及率は低いことがコロナ禍以前より大きく発表されている。

2、コロナ禍以前のテレワーク状況

厚生労働省テレワーク総合ポータルサイトでは、各国の企業におけるテレワークの導入率が発表されている。

出典:厚生労働省 テレワーク総合ポータルサイト 海外のテレワークの導入状況

テレワーク先進国といわれるアメリカでは、85.0%と突出しており、次いで欧州各国が続いている。このデータは、アメリカ2015年、欧州各国2010年、日本2018年の調査を集計している。一概に各国を比較する事は困難であるが、日本に比べ8年前の欧州各国で既に高い普及率を示しているところが多く、日本の導入率が低いことが伺える。

3、各国におけるテレワーク事情

アメリカのテレワーク導入率は85.0%と非常に高い。この背景には雇用の特徴として、日本とアメリカでは人材採用と配置の基本的な考え方が異なる。日本では採用後に配置を考える方式に対し、アメリカでは業務内容に応じて人材を採用していく方式である。このため勤続年数や勤務態度よりも成果が重要であり、テレワークという働き方が浸透しやすい環境であったのではないだろうか。また2010年には「テレワーク強化法」が制定され、テレワークの普及が一層促進されたものと考えられる。

イギリスではアメリカに次いでテレワーク導入率が高い。2012年のロンドンオリンピックが開催される事により、交通量削減の対策としてテレワークを導入した。これによりテレワークが普及していく事となった。

フランスはテレワーク導入率が14.0%と日本より低い。しかしながらフレキシブルな働き方の考え方が進み、テレワークの普及が進んでいる。日本と労働の考え方は異なっており、日本では残業することは会社への忠誠心の一因として美徳と考えられがちだが、フランスでは残業することは仕事が出来ない人間と考えられてしまう。1998年に「週35時間労働制」が施行されワークライフバランスを実現した働き方となっている。コロナ過を機にテレワークが普及していく事が予想される。

4、まとめ

コロナ禍の世界的規模のテレワーク導入調査は、今現在、公の機関より発表されておらず、今後の報道を待たざるを得ないが、「第4節 統計でみるテレワーク」からも見て取れるように日本でのテレワークの普及率は上昇している。各国のテレワークの普及率も上昇している事であろう。

日本では、社内コミュニケーションを重視した働き方が根強く、テレワークの導入が進みづらい環境である。日本でテレワークをさらに浸透させていくためには、各国の導入手法や働く環境の見直しなど企業の考え方も変えていく必要があるのではないだろうか。

第1章 第6節 総括

第1章 第6節 総括

千鳥ヶ淵研究室 統括責任者 小林 幸雄

 

昨年9月から千鳥ヶ淵研究室で、コロナ禍における労務管理に関する報告書として在宅勤務をテーマに、第1節在宅勤務の定義、テレワークの定義、第2節在宅勤務の導入プロセス、第3節会社から見るテレワークのメリット・デメリット、第4節統計でみるテレワーク、第5節諸外国のテレワークを報告してきた。第6節では研究室統括責任者である筆者(小林)が総括する。

本節では弊社のリモートワーク導入の経緯と、コロナ禍における在宅勤務の現状を報告し、合わせて2016年安倍内閣が提唱した、「働き方改革」の9項目のテーマのうちの一つである「テレワーク、兼業・副業といった柔軟な働き方」を検証することにより第1章の総括としたい。

1、弊社が在宅勤務を始めた経緯と基本方針

弊社は、政府の方針に先立って、2015年1月より「働き方改革」を実践しているが、その動機は、新規受注案件の増加や社労士業務以外の異業種への進出による職員のストレス・高負荷の改善と、仕事と生活の両立が図れる居心地の良い会社となるよう、多様な働き方を用意する必要性を鑑み導入したものである。

弊社における「働き方改革」は、筆者が2014年10月に職員に対して「働き方改革」の目的を従業員と共有するため、わかりやすく「いい会社にしたい!」というメッセージに変えて宣言を行うことから始まり、①残業時間ゼロ実現、②短時間正社員制度、③在宅勤務制度の3つの制度を柱に、取り組みを実現した結果である。

その顛末を時系列で整理すると下記のとおりとなる。

① 残業時間ゼロ実現についてプロセスは割愛するが(https://www.kobayashiroumu.jp/information/greetng-kob を参照)、労使双方で試行錯誤、対話を重ね実現させた結果、2015年に東京都から長時間労働削減部門で表彰され、ワークライフバランス企業の認定に至る。

② 短時間正社員制度は、今回のテーマではないので詳細は省略するが、育児・介護・自己啓発等でフルタイム勤務できない職員に対し、柔軟な働き方を用意する目的で制度を導入したが、中途採用者の求人募集にあたり優秀な人材の確保にも有効であることに気付かされた。

③ 在宅勤務は、コロナ禍で感染防止の有効な手段として行政の要請もあり一気に普及した。しかしながら、筆者は在宅勤務制度を多様な働き方の選択肢の一つに過ぎないと考える。したがって以下に報告する弊社の在宅勤務制度については、働き方改革が原点にあることを確認しておきたい。

2、弊社の在宅勤務導入事例と導入経費、および助成金の活用について

弊社の在宅勤務制度の導入事例については、弊社の勤務社労士の高嶋が2017年5月の日本法令SRの第45号に「社労士事務所の働き方改革~在宅勤務制度導入事例」詳細を執筆しているので引用したい。なお、掲載当時と現在の状況は法改正もあり、内容に若干の齟齬がある。 (日本法令SR第45号

3、弊社の在宅勤務の規定例とコロナ禍におけるリモートワークの現状

弊社の現行の在宅勤務規程は下記のとおりである。

別紙1 在宅勤務制度規程

2015年当時の規定が生きているので、感染防止を目的とした在宅勤務を命ずる内容とするためには違和感のあるものとなっている。特に第3条(手続き)と第4条(在宅勤務期間)は、感染防止を目的としたテレワークを命ずるには見直しが必要となる。そこで、弊社では政府による2020年4月の緊急事態宣言が発出された翌日に「新型コロナウイルス感染拡大防止による在宅勤務における方針」を、2020年8月1日に「新型コロナ感染拡大防止に関する在宅勤務に関する基本方針」を定め在宅勤務を実施した。また、2021年1月の2回目の緊急事態宣言発出の際の基本方針も添付するので参照されたい。

別紙2 新型コロナウイルス感染拡大防止による在宅勤務における方針

別紙3 新型コロナ感染拡大防止に関する在宅勤務に関する基本方針

別紙4 2021年1月7日1都3県緊急事態宣言発出における勤務方針

コロナ禍における感染防止のためのテレワークは、スピード感を持った運用を行わねばならず、就業規則を改定し従業員代表の意見を聞いて労基署に届け出をするという一連の手続きを経ていては間に合わないので、社命で在宅勤務を行ったことはやむを得なかったと考えている。

次に在宅勤務中の労働時間の管理であるが、弊社では、SNSを使い勤怠報告させ、クラウド上で労働者が始業・終業時間を入力し勤怠管理を行っている。時間外労働は、前述のとおり行わない前提となっているが、 一日の労働時間を1分単位で集計し、月30分に満たない労働時間は切り捨て、30分以上を切り上げることとしている。
在宅勤務をはじめとするテレワークにおける勤怠管理は煩雑であるので、みなし労働時間制度を取り入れる企業もあるかとは思われるが、その場合要件があり、

①PC等の情報通信機器が使用者の黙示の指示を含め常時通信可能となっていない。使用者の指示に即応する義務がない。

②在宅業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていない。

という2点を満たす必要がある。
※詳細は、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を参照。

しかしながら、労働時間管理と就労環境の整備およびチェックは、労働安全衛生の観点からも重要であり、PCの使用時間をアクセスログにより把握し、長時間労働にならないように留意すべきである。

なお、「コロナ禍における労務管理の報告書」の第2章のテーマは、「コロナ禍における健康管理と安全衛生」と決定し執筆が始まっている。

4、筆者の考える在宅勤務のメリット・デメリット

前述したように弊社では2015年から働き方改革の一環として在宅勤務を行っていたが、在宅勤務が常態化していたわけではない。
在宅勤務 を希望した者は、育児や介護といった個人の生活と仕事を両立させるために在宅勤務を選択したのであるが、理由が解消すれば通常勤務となる。
しかしながら、在宅勤務をはじめとするテレワークはコロナ禍において感染防止と行政の要請に協力するという観点から必須となり、職員の命を守るためにも在宅勤務を社命で行った。
筆者も自宅、沖縄うるま事務センター、弊社那須保養所においてリモートで業務を行うことがあるが、当初は不自然に感じたリモートによる役員会議、採用面接、長時間におよぶ顧客との打ち合わせも慣れてしまえば違和感はない。そのような状況で在宅勤務を選択するか否かの判断を筆者は恣意的に選択しているが、出勤しなければならない日の朝が億劫になっていることは事実である。
経営者として職員の顔色を観察し、社是である「仕事は楽しくチームワークで」を実践するのが筆者の役割であるが、それをテレワークで完結する事はできないし、仕事の内容、職位によってテレワーク は限界があると考える。コロナ禍が終息し、マスクで顔を隠して対面することが失礼だった元の生活に戻った時に、筆者はテレワークが本来の目的で運用できるか懸念している。
いずれにしてもテレワークは、労働人口が減少する中で優秀な人材の確保、業務効率・生産性の向上、BCPなど様々なメリットが考えられ、コロナ禍でそれが大幅に普及したことは否めないが、 弊社の顧客の状況を検証する と医療・介護をはじめとするエッセンシャルワーカーや製造業や建設業など業務の内容によりテレワークが導入しにくい業種もあり、数値目標を立ててテレワーク導入を検討するようなことはせず、自社の状況に応じて柔軟に多様な働き方を構築することが肝要ではないかと考える。

最後に、以下本章の各節を担当した千鳥ヶ淵研究室のメンバーに感謝する。
高嶋茂雄
遠藤恵
渡邊駿
小林励子
黒沢和也

第2章第1節 安全配慮義務

第2章第1節 安全配慮義務

1、安全配慮義務とは

安全配慮義務とは、労働契約法第5条に次のような定めがある。

「使用者は、労働者契約に伴い、労働者がその生命身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」

これは、仕事中に怪我をしたり、健康を害するようなことがないように労働できるよう、会社は配慮をする義務を負うことを意味する。

2、コロナ禍における安全配慮義務

コロナ禍の現在においては、次のような感染予防対策も安全配慮義務の一環といえる。

1)テレワーク

2)時差出勤

3)社内環境整備

(アクリル板の設置、定期的な換気、少人数での打ち合わせ、マスクの着用義務化、消毒液の備え付け、手洗いうがいの勧奨など)

 弊社にも多く相談を寄せられた「マスク着用を義務化できるかどうか」については、上述の安全配慮義務の観点からも可能であると考えるが、会社がマスクを用意するもしくは、その費用を負担するなどして、会社が積極的に義務の履行を果たすための努力をすることも忘れてはならない。会社が積極的に義務の履行を果たすための努力をするという観点から、テレワークの実施についても同様と言える。たとえば、テレワークの実施について、労働者の任意の選択により在宅と出勤を選択できるようにすることは良いが、そのような場合でも、暗に出勤を強制するような言動により、労働者がやむを得ず出勤を選択せざるを得ない状況に追い込まれているようであれば、感染予防対策を履行したとは言い難いであろう。

なお、安全配慮義務は、働く場所に関わらず雇用契約に基づいて労働する場合に等しく適用されるものだから、テレワークにおいて勤務している場合にも適用される。

安全配慮義務を履行したというためには、次の2点に注意しなければならない。

1)予見可能性・・・労働者の身体や健康を害することが予見できたかどうか

2)回避可能性・・・予見できたとしても、結果を回避することができたかどうか

会社が安全配慮義務を怠った場合、民事上の責任を追及される可能性が高まる。

例えば、飲食を伴う懇親会や、大人数や長時間におよぶ飲食が伴う飲み会や宴会を会社が主催し実行した結果、従業員が新型コロナウイルスに感染してしまったような場合は安全配慮義務を問われかねないと言える。

 

また、発熱がありコロナウイルス感染症の疑いがあるような従業員を就労させてしまった結果、他の従業員が感染してしまった場合は、上述の予見可能性(予見できたにも関わらず)、回避可能性(結果を回避しようとしなかった)共に、怠ったことになるであろう。

この他、濃厚接触者となった従業員についても同様である。

3、テレワークにおける安全配慮義務

会社は、在宅勤務等のテレワークで勤務する場合においても安全配慮義務を負う。そのため、在宅勤務等のテレワークで勤務する場合には、その労働衛生上の問題点を解決するように配慮する必要があるといえる。

加えて近年は、テレワークをしている従業員に対する嫌がらせ、いわゆる「テレハラ」が問題になっている。安全配慮義務は、身体の健康や安全のみならず、心の健康についても配慮を求めている。

次節以降ではこれらテレワークにおける労働衛生上の問題点や、テレワークにおけるハラスメント等についても触れていく。

第2章第2節 会社における健康管理

第2章第2節 会社における健康管理

会社はどのようにして従業員の健康管理を行う必要があるのだろうか。今節では、会社が労働者の健康を確保するための措置について、原則的なものとコロナ禍におけるものの二つの措置に分けて述べていく。

1、会社が行うべき健康確保措置

原則、会社が行わなければならない健康確保措置として、次のようなものが挙げられる。

1)年一回の定期健康診断

2)労働時間の管理(客観的な把握)

3)ストレスチェック

定期健康診断については、労働安全衛生規則第44条に「事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に医師による健康診断を行わなければならない。」と定められている。これには、従業員が作業することにより引き起こされる事故や疾病を防ぎ、またはそれを早期発見し被害の拡大を防止する目的がある。また、個々の従業員の診断結果は職場の作業管理の重要な情報であり、環境改善のための資料ともなり得る。

労働時間の管理については、労働基準法により使用者は労働時間を適切に管理する責務を有しているほか、労働安全衛生法第66条8の3において労働時間の把握が義務づけられている。この際、タイムカードの記録やパソコンの使用記録等、客観的な方法で把握を行う必要がある。この目的として、長時間労働者に対して産業医などの医師による面接指導を確実に実施することなどが挙げられる。

ストレスチェックについては、労働安全衛生法第66条の10、労働安全衛生法施行令第5条において、労働者が常時50人以上いる事業所では毎年1回全ての労働者に対してストレスチェックを実施することが義務づけられている。ストレスチェックとは、ストレスに関する質問票に労働者が記入し、それを集計・分析することで自分のストレスがどのような状況にあるのかを調べる検査のことである。

2、コロナ禍における健康確保措置

コロナ禍においては、原則行われる健康確保措置に加えて職場の感染症対策も行う必要がある。厚生労働省では、感染症対策を実施するためのポイントとして次の5点を挙げている。

1)テレワーク・時差出勤等の推奨

2)体調不良の際に休みやすいルールの策定、雰囲気づくり

3)職場の三密を避ける工夫(距離の確保、換気等)

4)「感染リスクが高まる『5つの場面』」での対策、呼びかけ

5)感染防止のための基本的な対策(消毒、咳エチケット等)

これらの措置は会社主体で積極的に実践していくとともに、従業員への周知や協力を求めていく必要がある。特に外国人労働者がいる職場では、感染症対策を周知させる方法として、外国語に翻訳した資料を渡したという実践例もある。

また、テレワーク下では、以下のようなチェックリストで対策が提示されている(図表1抜粋)。

健康確保対策としては、

      • テレワーク中の労働者の健康診断受診における負担軽減に配慮しているか
      • テレワーク中の労働者にオンラインで面接指導を行った場合、医師に事業場や労働者に関する情報を提供し、円滑に送受信可能な情報通信機器を用いて実施しているか

メンタルヘルス対策としては、

      • 時期を逸せずにテレワーク中の労働者がストレスチェックを受けられる配慮をしているか
      • ストレスチェック結果の集団分析は、テレワークが通常の勤務と異なることに留意して行っているか

その他の対策としては、

      • 同僚とのコミュニケーション、日常的な業務相談や業務指導を円滑に行うための取組がされているか
      • 災害発生時・業務上の緊急事態発生時の連絡体制を構築し、テレワーク中の労働者に周知させているか

以上のように、会社は常に従業員の健康確保を求められ、コロナ禍の現在においては更なる措置を講じなければならない。次節では、テレワークにおける衛生規則について述べていく。

図表1(抜粋)

厚生労働省 : https://www.mhlw.go.jp/content/000755113.pdf

第2章第3節 事務所衛生

第2章第3節 事務所衛生

本節では、在宅勤務等のテレワークで勤務する場合において、会社に求められる安全配慮義務の一端である労働衛生上の問題に連なる事項として、テレワークにおける適切な就労環境ついて確認する。

1、労働安全衛生法と作業環境

労働安全衛生法は、労働基準法と相まって、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを一つの目的としている。テレワークを実施している場合においても、会社には同法の定めに基づき、労働者の安全と健康を確保するための措置を講ずる必要が求められている。

しかしながら、テレワークを行う作業場が、労働者の自宅等、会社が業務のために提供している作業場以外である場合には、事務所衛生基準規則(昭和47年労働省令第43号)、労働安全衛生規則((昭和47年労働省令第32号)(一部、労働者を就業させる建設物その他の作業場係る規定))及び「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日基発0712第3号)は一般には適用されないことから、会社は、自宅等で働く労働者に対して、これらの規則に定める基準と同等の作業環境となるように助言等を行うことが望ましいとされてきた。

2、テレワークのためのガイドライン

令和3年3月25日に公表された「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」という)では、在宅勤務であっても、会社における職場と同等の環境を整えられるよう、会社が従業員に助言等を行うことが望ましいと明示され、会社が適切に労務管理を行い、労働者が安心して働くことができる良質なテレワークを推進するために、労使双方にとって留意すべき点、望ましい取組等を明らかにしたものである。

職場環境に注目すると、具体的に次のような環境整備(※1)が求められている。

【部屋】
・設備の占める容積を除き、10㎥以上の空間を確保すること

【照明】
・机上は照度300ルクス以上あること

【窓】
・換気設備を整え、ディスプレイに太陽光が入射する場合にはカーテン 等を設ける

【椅子】
・安定していて移動が簡易であることや、高さを調整でき、
傾きを調整できる背もたれ・ひじ掛けがあること

【机】
・十分な広さと空間があり、体型に見合ったものであること

【PC】
・ディスプレイとキーボードは分離して位置を調整できることや、
操作のしやすいマウスを使用していること

【室温・湿度】
・気流の速度や、室温、相対湿度を適切に保つよう努めること

【その他】
・椅子に深く腰掛けている等、正しい姿勢で足の裏が床についている姿勢が基本となっていること
・ディスプレイとの距離の確保や、PC等の操作が過度に長時間にならないようにすること

3、テレワークにおける作業環境の重要性

会社は、労働者がテレワークを初めて実施するにあたって自宅の環境を職場と同等の基準に近づけるために、「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者用】(※2)」を活用する等により、適切に実施されることを労使で確認した上で、作業を行わせることが重要といえる。

さらに、会社による取組が継続的に実施されていること及び自宅等の作業環境が適切に維持されていることを、当該チェックリストを活用しつつ、定期的に確認することが望ましい取り組みと考えられる。

一般的に、在宅勤務の環境整備というと、PCやインターネットなどの通信環境が重視されがちであるが、それ以外の椅子や机、照度なども重要な環境整備の一つであることを忘れてはならない。

そのため、会社が従業員に対して在宅勤務を命じるときや許可を出す際には、上述のような環境が整っていることを確認することが望ましいのではないだろうか。

仮に、環境の整っていない従業員に無理やり在宅勤務を行わせ、業務上災害が起こった場合、会社は安全配慮義務違反を問われる懸念も残る。

以上のことから、会社が在宅勤務を促進していくためには、事務所衛生基準に従業員の在宅環境を近づけていくことが、今後さらに重要となるだろう。そのためには、会社が環境整備のための費用を負担したり、在宅勤務そのものを許可制に留めておくといった対応を視野に入れることも考えられる。次節では、コロナ禍におけるメンタルヘルスについて述べていく。

 

※1 自宅等でテレワークを行際の作業環境整備

厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000546922.pdf

 

※2 自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者用】

厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf