第2章 第4節 メンタルヘルス

第2章 第4節 メンタルヘルス

千鳥ヶ淵研究室 研究室長 上村美由紀

本節では、在宅勤務等のテレワーク勤務におけるメンタルヘルスについて述べる。テレワークが浸透する一方、突然の環境変化によってメンタルヘルス不調を感じる労働者が増えている。企業と従業員のメンタルヘルス対策について考察する。

1、ストレスを感じる労働者の増加

メンタルヘルスとは「心の健康状態」のことを指す。厚生労働省ではメンタルヘルス不調を「労働者の心の健康の保持増進のための指針」※1(以下「指針」という。)の中で「精神及び行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など労働者の心身の健康、社会生活及び生活の質に影響を与える可能性のある精神的及び行動上の問題を幅広く含むもの」と定義づけている。
令和2年9月に厚生労働省が調査した「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査」によると、令和2年4月から5月の間で何らかの不安等を感じていた人の割合は63.9%にものぼり、感染に対する不安や行動制限等、人々の心理面に大きな影響が生じていることが分かる。また、令和2年8月17日厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」参考資料「テレワークを巡る現状について」より、テレワーク業務上の不安として、
・非対面のやりとりで相手の気持ちが分かりにくく不安
・会話が減って寂しさを感じる
・上司から公平・公正に評価してもらえるか
・成長できる仕事を振ってもらえるか等、
業務時の不安、社内評価やキャリアへの不安を感じている従業員が多いことも分かった。

社会的に不安定な状況が続く中、テレワークという不慣れな環境ではメンタルヘルスに与える影響は大きく、メンタルヘルス不調下において、従業員が最大限のパフォーマンスを発揮することは難しい。生産性の低下のみならず、休職や離職の引き金となり、企業全体の業績低下にもつながりかねない。
平成20年4月9日内閣府男女参画会議 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会によると、メンタル面等の理由で休職者がでることは、休職者1人あたり422万円ものコストであると試算している※2。
企業は、職場環境安全配慮義務の観点のみならず、経営上のリスクマネジメントの観点からも、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐため、策を講じる必要があるといえる。

2、企業のメンタルヘルス対策

労働安全衛生法第70条の2に基づき、厚生労働省は、企業が従業員のメンタルヘルス対策が適切かつ有効に実施されるよう指針を定めている。
実施にあたっては、次の3つの予防を示している。
・一次予防(メンタルヘルス不調となることを未然に防止する)
・二次予防(メンタルヘルス不調者を早期に発見し、適切な対応を行う)
・三次予防(メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰支援を行う)
企業には、これらの予防が円滑に行われるような対策が求められている。
中でも、平成27年12月1日に施行されたストレスチェック制度※3は、メンタルヘルス不調を未然に防止する一次予防の取組みとして開始されたものであることからも、一次予防が重要であることが伺える。
また、これらの取組みにおいては4つのケアが継続的かつ計画的に行われることが重要であると定めている。すなわち企業はまず「心の健康づくり計画」※4を策定し、「セルフケア」「ラインケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」を行うことを推進している。さらに、メンタルヘルスケアを推進するにあたり、「心の健康問題の特性」「労働者の個人情報保護への配慮」「人事労務管理との関係」「家庭・個人生活等の職場以外の問題」に留意するよう促している。

①セルフケア
従業員が自分自身で行うメンタルヘルス対策のことであり、3.従業員のメンタルヘルス対策で述べる。
②ラインによるケア
管理監督者が行うケアのことであり、管理監督者が職場のストレス要因を把握し改善を行う。具体的には、部下からの相談対応や職場復帰をする際の支援が上げられる。
③事業場内産業保健スタッフ等によるケア
産業医や衛生管理者によるケアのことであり、①セルフケア②ラインによるケアが効果的に実施されるよう支援を行う。個別のケースを扱うだけでなく、企業全体のメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案、教育研修等も行う。
④事業場外資源によるケア
専門知識を有する外部の機関やサービスを活用する。

企業は、3つの段階の取組みと4つのケアを継続的かつ計画的に実施し、従業員のメンタルヘルス不調の予防と発生時の対処を適切に行うことが求められる。
働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト厚生労働省こころの耳(以下「こころの耳」という。)に、職場のメンタルヘルス教育ツールとして研修資料等が掲載されているので参考にされたい。
https://kokoro.mhlw.go.jp/download/

3、従業員のメンタルヘルス対策

労働契約法第5条で企業に職場環境安全配慮義務が課されているのとともに、従業員にも労働安全衛生法第26条に罰則付きで自己保健義務が定められている。すなわち、企業が行う措置に対し、従業員自身も安全に労働できるよう健康状態を管理することが求められている。
前項①セルフケアは従業員自身がメンタルヘルスに対して理解を深め、自分自身を適切に対処することである。そのために有効な手段の一つとして、ストレスチェックが上げられる。ストレスチェックは、企業が従業員に対して心理的な負担の程度を把握するための検査であるが、従業員自身のストレスへの気づきを促してメンタルヘルス不調の予防を図るためのものでもある。
こころの耳では、働く方へ、というサイトも用意されており、主にセルフケアや、つらさを感じたとき等、相談窓口も設置されており、従業員の拠り所となっている。
https://kokoro.mhlw.go.jp/worker/
メンタルヘルス対策は企業の義務であるが、従業員にも自己保健義務が課されているのであるから、企業任せとせず、自身のストレスや心の健康状態について、正しく認識し対処する必要がある。

 4、まとめ  筆者の視点からメンタルヘルス対策を考える

当社は、人事労務のエキスパートとして企業を支援する立場であるから、お客様にとって、より現実味のあるアドバイスやサポートを心掛けている。企業に対してアドバイスを行いながら、自社では企業としての責務を果たしていない、経験していないことを指導しても、説得力に欠け、たとえ良い内容だったとしても、お客様に寄り添った助言はできないと考えているからだ。
現在従業員数は全体でも30人程であるが、従業員数50人以上の事業場が義務である衛生委員会も設置・開催し、精神保健指定医でもある産業医の選任もしている。ストレスチェックも、その後の産業医面談も実施している。平成31年2月には経済産業省「健康経営優良法人2019」にも認定され、継続して認定されている。
また、コロナ禍においてテレワークが進むと、会社と従業員、従業員同士のコミュニケーションも希薄になることから、EQ(educational intelligence quotient 心の知能指数)研修を行い、自分の感情をコントロールし、他人の感情を理解する能力の向上にも努めている。
https://6seconds.co.jp/emotional-intelligence

社内の職場環境向上の観点からも、当社の品質維持・向上、業績向上の観点からも、職場環境整備には積極的に関わっていきたい。
従業員が安心してイキイキと働けるための環境整備が、優秀な従業員の定着、従業員満足となり、それが従業員一人ひとりの仕事にも直結して、お客様の満足にもつながる。お客様の満足に繋がれば、業績にも良い影響を与え、従業員に還元することができ、ますます企業の発展に繋がると考える。

当社の社是は「仕事は楽しくチームワークで」である。楽しくとは、仲良く仕事をすることでもなければ、ラクに仕事をすることでもない。ましてや、楽しくするのは会社でもない。一緒に働く仲間が同じ目的を持って同じ方向を向き、チームで協力し合って成し遂げる。知らなかった知識を得、困難を乗り越えて、目標を成し遂げたとき、達成感や満足感を実感することで、仕事が楽しくなる。一人ひとりの考え方ひとつで、仕事は辛く苦しいものであるか、楽しく充実したものであるかが決まるのである。
メンタルヘルス対策は企業の重要課題であるが、組織として動いている以上、従業員一人ひとりのすべての望みを叶えること、不満を解消することは到底できない。
であるならば、メンタルヘルス対策の一番の根幹は、従業員一人ひとりの問題、すなわち上述したセルフケアの効果的な実践が最も重要だと言える。ましてや、テレワーク下においては、対面と比べて特にコミュニケーションを取ることが難しい。例えばメールやチャットのみの対話の場合、その場の空気感、状況や感情がその行間からは感じ取れない場合が多く、誤った解釈に繋がる危険性もある。そんなときの不満や不安、すれ違いから、メンタルヘルス不調に繋がりやすいと考える。

企業には安全配慮義務があり、従業員には自己保健義務がある。
企業の安全配慮義務を果たすためには、第一に経営者自身が心身の健康に気遣う。そして、管理監督者へのメンタルヘルス対策が重要である。自分自身が安定していなければ、他人を気遣う余裕はなくなる。自分の機嫌は自分で責任がとれるように、先のEQ研修等は効果的と考える。
企業は、メンタルヘルス不調者への事後対応に追われることなく、教育研修や情報提供を行う等、まずは従業員が自らメンタルヘルス対策を行えるよう啓蒙し環境を醸成していくことが必要だ。
それが結果として従業員の成長に繋がり、企業の発展に繋がると、筆者は考える。

次節では、コロナ禍におけるハラスメントについて述べていく。

 

※1 参考資料
「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」
https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf

※2 詳細は、平成20年4月9日男女共同参画会議 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会 企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット参照
https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/wlb/index-wlb200409.html

※3 ストレスチェック制度とは
厚生労働省「改正労働安全衛生法に基づく、ストレスチェック制度とは?」より抜粋
定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団ごとに集計・分析し、職場におけるストレス要因を評価し、職場環境の改善につなげることで、ストレスの要因そのものも低減させるものであり、さらにその中で、メンタルヘルス不調のリスクの高い者を早期に発見し、 医師による面接指導につなげることで、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止する取組です。

※4 心の健康づくり計画
労働安全衛生法第69条により、企業にはメンタルヘルス対策の基本方針として「心の健康づくり計画」を策定することが努力義務となっている。
「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」
https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf
P6参照