第1章 第3節 会社から見るテレワークのメリットとデメリット

第3節 会社から見るテレワークのメリットとデメリット

千鳥ヶ淵研究室 研究員 渡邊駿

1、テレワーク勤務の事例紹介

総務省では、平成27年度より、テレワークの導入・活用を進めている企業・団体を「テレワーク先駆者」としており、その中から十分な実績を持つ企業等を「テレワーク先駆者百選」として公表している。平成28年度より、その中から特に優れた取り組みを行っている企業・団体を「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」として公表している。

以下にその取組事例と主な効果を記載する。

【事例1】

企業名:アフラック生命保険株式会社

業種・従業員数:金融業 5,287人

[主な取組]

・全部門・全社員が事前事後の申請・報告なくテレワーク可能 (実施回数・時間に制限なし)

・TV 会議システムの完備、在宅勤務用のシンクライアント端末配布等の ICT ツール整備により場所を選ばず社内と同様の業務遂行できる環境を整備

・分身ロボット「OriHime」を導入、地方勤務社員がテレワーク活用で本社の業務や研修に参加

[主な効果]

・1人当たり時間外労働時間 -2.9時間 (2017年→2018年の推移)

・短時間勤務社員のフルタイム化 (2015年度:53.4%→2018年度:38.4%)

【事例2】

企業名:明豊ファシリティワークス株式会社

業種・従業員数:建設業 229人

[主な取組]

・自社開発システムにより、個人の業務行動を時間単位で把握し、各社員の生産性を定量化

・テレワーク投資への経営判断が容易になったことで、テレワーク環境の整備・改善を加速

・地方自治体から発注者支援業務を受託し、プロジェクトの効率的管理を実現すると同時に、自治体でのテレワーク環境創出を支援

[主な効果]

・1人当たり月平均残業時間 -27 時間 (2012年→2018年の推移)

・時間あたり売上粗利 1.56 倍 (2012 年 → 2018 年の推移)

→ 生産性向上による時間外手当支給実費減少分を給与・賞与で還元

(令和元年度 テレワーク先駆者百選 総務大臣賞 受賞より引用)

2、得られるメリット

時間と場所を有効に活用できるテレワークは、企業及び従業員に様々なメリットがあることが報告されている。上述した ① の「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」を受賞した企業の主な効果を確認すると「1人当たりの残業時間の削減」や「生産性の向上」といった効果があることが確認できる。

そのほか企業が恩恵を受けている点として「人材の確保・育成」「業務プロセスの革新」「事業運営コストの削減」「非常時の事業継続性の確保」「企業内外の連携強化による事業競争力の向上」「人材の離職抑制・就労継続支援」「企業ブランド・企業イメージの向上」が挙げられることが報告されている。(テレワークではじめる働き方改革 テレワークの導入・運用ガイドブック(2016)より引用)

企業のテレワークの導入を検討理由に対する動向調査では「勤務者の異動時間の短縮」が導入目的として割合がもっとも高かった。また、同調査で回答率が高かった項目として「通勤弱者への対応」「優秀な人材の雇用確保」が挙げられる。これは従業員の雇用継続のために、テレワークを導入する企業が増加していることを示しているものであると報告されている。(総務省「通信利用動向調査」(各年)より引用)

3、テレワークにおける安全配慮義務と労働災害

使用者は労働安全衛生法に基づき、労働者の健康状態を把握し、その内容・程度等に応じて、作業の転換や内容の軽減措置等を講じることが、健康・安全配慮義務の履行として求められる。安全配慮義務とは使用者が従業員に負う雇用契約上の義務であり、災害発生を未然に防止するため、物的・人的管理を尽くす義務である。この義務はテレワークを行う従業員に対しても、事業場における勤務と同様に労働災害に対する補償責任を負うこととなる。

すなわち、テレワーク勤務中であっても事故や怪我等に見舞われた場合には労働災害に対する補償責任を負うこととなる。実際にテレワークで労災が認定された事例を以下に記載する。

【事例】

自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した事案。業務に付随する行為に起因して災害が発生しており、私的行為によるものとも認められないため、業務災害として認定された。

(厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」より引用)

以上の内容から、私的行為等の業務以外が原因である災害以外は労災保険給付の対象となることが考えられる。

つまり、テレワーク勤務中特に在宅勤務中であっても労働安全衛生法に定める、作業環境を整えていない場合には安全配慮義務違反として、その責任から逃れることはできないことが示唆される。